「スポーツと突然死」
  

 楽しいスポーツと悲劇的な突然死。この取り合わせのニュースが新聞で報道されることは珍しいことではない。今回はスポーツと背中合わせかもしれない運動時の突然死についてデータを交えてお話しします。
★突然死の頻度
 学校心臓検診にも拘わらず学校管理下(朝登校時から帰宅するまで)の突然死は一年間に120−150例認められる。事故死、日射病、睡眠時死亡などを含む死亡全体では年間200ー250と言われるので、原因不明、心疾患に由来する突然死とされるものが半分ということになる。
★年齢
 昭和60年から平成8年までの静岡県のデータでは、学校管理下の突然死は年齢が大きくなるにつれて発生頻度は増加し、図1にも示すように人口10万人に対して小学校が0.25、中学校が0.60、高等学校0.91となり、高校生では小学生の約4倍となる。

★男女差
 突然死の性別では、男児に圧倒的に多く、女児に比べて小学校で1.8倍、中学校で2.5倍、高等学校で2.5倍といわれている。
★突然死の原因
 突然死の原因はというと、心臓病に由来すると思われる突然死が圧倒的に多い。おおまかには小学校で70%、中学校で75%高等学校で85%が心臓が原因で死亡しているといわれる。 では突然死の発生状況をみると、本県データを図2に示すが、約70%が運動との関係で死亡しており、運動中が50%で運動直後に起こったものが20%といわれる。

★運動の種類
 運動の種類では、やはり本県データの図3をみると、持久走、ランニング、サッカー、バスケットなどが多く、水泳、登下校などの歩行中のものもみられる。ランニングに関係する突然死では、最中が75%で、直後が25%であり、特にゴールの前後が30%とかなりの部分をしめる。一方ランニングのスタート直後に発生するのはまれのようである。このことは、ゴールが間近になって、少し自覚症状があっても頑張ってしまおうということで突然死を増やすことになるのかもしれない。  

★学校別、学年別の起こり方
 図4に示すように、学年別の心臓突然死数は年齢とともに増加するが、小学校では4年生くらいから増え始め、小学校から中学へ、中学から高校へ進学にともなって急増する傾向がみられる。この傾向は、前述のように突然死が運動に関係して起こりやすいことを考えれば当然の結果であり、中高校生で運動の質と量の急激な増加によるものと思われる。また、前述したが性別で男児に圧倒的に多いことも、運動量などを考えると当然かもしれない。

★突然死の季節・時間帯
 季節では図5にみられるように5、6月の春に多い。このことより新入部員の練習方法には充分配慮を要するといえよう。
  
 

突然死の時間帯では、図6に示すように午前中が断然多く、これは成人でも同様のことが指摘されているが、交感神経の影響が大きいとされている。

突然死の危険が高い心疾患
 次に、どの様な心疾患が突然死の危険が高いかみてみよう。表1に示すが、このうち先天性の心疾患や川崎病後遺症などは患児や家族がすでに病気を知っていて、主治医の管理を受けているものと思われる。これに対して、心筋疾患や不整脈は、学校心臓検診で初めて発見されることもしばしばある。精密検査として負荷心電図検査を行うと、安静時にはでていなかった異常が出現し、突然死を起こしやすい心疾患があることがわかることがある。この場合管理指導を守ることが特に重要である。これとは逆に、このような心臓疾患の中には負荷心電図検査をしてみると、突然死の危険が少なく運動制限をする必要が全くないことが判明する場合もかなりの数ある。(No15 内科的メディカルチェックへ)
★突然死の予防
 どうしても完全に避けることは無理であるが、最後に突然死をどうして予防したらよいか考えてみよう。表2に考えられるポイントを列挙したので参考にしてください。専門医の経験から、管理指導を必ず守ることが非常に重要であると思われる。管理指導を守らなかったばかりに、重大な結果を招いた例が少なからず報告されているからである。 万が一の場合に備えて救急蘇生のABC(みんなのスポーツ医学No17へ)は各自実地訓練をしておくことが望ましいと考えます。
 

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