頭部外傷のチェックポイント
 
   スポーツにおける頭部外傷は他の身体部位の損傷に比べ頻度は少ないものの、頭部を打ったとなればやはり心配になるものです。図1はスポーツの種類と受傷機転および脳や頭蓋骨がどのような状態になるか示したものです。
今回は重症例を除き、受傷時とその後の経過で留意すべき点などについて述べてみます。
 
図1 スポーツによる頭部外傷
 
1.頭部を打ったら
 打撲部位をまず見ます。こぶがあるかないか、出血しているかどうか。同時に意識がはっきりしているかを確認します。こぶの場合は図2のように皮下血腫か腱膜下血腫が時々みられます。腱膜下血腫の場合は受傷部位がブヨブヨしていて押すと骨が折れたように段違いになっているのが特徴です。これは陥没骨折と間違われることがありますが、実際にそのような骨折をおこしていることもあり、場合により整復手術が必要なこともあるので医療機関受診が必要です。
 頭部の出血は腱膜下に走る動脈からのものでは、思いの他多量の出血がみられますので、あまりびっくりしないでガーゼとかタオルで圧迫して縫合することになります。「よく外に出血したから安心だ」ということが言われていますが頭部からの出血と脳の損傷の程度とは関係ありません。

図2
   次に意識状態の確認方法ですが、今日の日時、今いる場所、今までどのようなことをしていたか(野球をしていてホームヘ滑り込んだ、サッカーをしていて人にタツクルされたなど)、右手はどちら、100−7=?すべて単純な質間に答えられたら正常です。ときにきちんと答えても同じことを何度も尋ねてくる時は意識障害ありと考えます。
2.意識が戻ったら
 一瞬意識がなくなりすぐ戻ることがあります。このときプレーを続行すべきかどうかの判断は受け答えがはっきりしている(意識清明)、頭痛、悪心、嘔吐などがない、四肢の動きや感覚に異常がない、ものが二重にみたり、耳なり、めまい、聴力低下などの脳神経症状がない、このようなときは続行可能と考えられます。しかし途中で何らかの異常が出現すれば直ちにプレーを止めさせ医療機関を受診すべきです。受傷者がどこかで吐いて戻ってそのままプレーすることもあるので関係者はきちんとした監視が必要です。
 
3.家に帰ったあと
 頭部を打ったあとよくみられるのが、帰宅してからの頭痛、悪心、嘔吐です。何か食べたあとが最も多いようです。が、胃の中になにもなくても嘔吐するとき同時に強い頭痛を訴えれば頭蓋内出血も考えなくてはいけません。意識がもうろうとしてきたり、半身マヒなどがみられたら緊急を要します。脳外科の緊急手術が可能な医療機関へ直行すべきです。l−2回位の嘔吐で強くない頭痛程度であれば、まず安静にして水分を一口から二口位あげて吐かないか様子をみます。30分から1時間位たったあと気分を確かめもう一度水分を与えてみます。食欲があるようなら同様に小量の消化のよいものを食べさせてみます。普段食べる量の6−8割程度にとどめます。そして吐かなければ水分は十分に与えるようにします。夜中に心配になった時は、名前をよんで答えるかどうか、痛みを与えてイタイというか、あるいは瞳の大きさが左右同じかどうか光をあてて見てください。次の朝元気であればほぼ問題ないでしょう。脳の腫れ(脳浮腫)は凡そ24−48時間続くとされていますが、食事をとっても吐かないで収まっていれば脳の腫れも去ったと考えてよい一つのバロメーターです。従って最低24時間の監視が必要と思われます。
4.その他
 頭部外傷は時々刻々と病状が変化してゆくものであることを決して忘れてはいけません。また一見軽症のようで重症であったり、またその逆もあります。きちんとした防具を身につけ、ルールを遵守すれば大事に至ることはかなり減少するといわれています。スポーツにおける頭部外傷は予防が最も肝要といえそうです。状態によっては直ちに救急車で搬送するタイミングを逸してはならないことを最後に付け加えておきます。
 
 
 
「耳介血腫・鼻骨骨折」
 
1.耳介血腫(じかいけっしゅ)
 耳介血腫は柔道を始めたばかりの高校1年生によくみられま
す。耳が畳でこすれ軟骨膜下に血腫ができ、軟骨膜は外方へ隆起し、耳介皮膚を下から押し上げることになります。また、損傷が小さい場合は血腫を経過することなく耳介漿液腫という形になります。
 柔道以外では剣道(横面)、ボクシングなどでもみられます。治療としては、穿刺吸引後圧迫します。理想的にいうなら、シリコン圧迫で外耳の形を整え、耳介の後方へ枕ガーゼをおき、包帯で圧迫固定をします。(図1,2,3)しかし柔道を続けていくようなら再び血腫となり、この治療は効果が少ないので、将来外耳がカリフラワーイア(図4)という形になることを説明し納得してもらいます。
 実際の診療では、柔道をしている諸君はおそらくやめられないでしょう。3年生になって初めて血腫になった人で、柔道をもうやめるというならば、しっかりと治すことを勧めます。
 剣道の場合は、ガーゼをすると面をかぶることができないので、やはり高校3年生で、もう面をかぶることがない人のみ根治的な治療が可能です。
図1
穿刺吸引(18Gで軟骨膜を傷つけないように) (穿刺吸引できないほどの凝固塊になっている場合は切開が必要になる場合もある)





図2
シリコンを絆創膏で固定








図3
耳の手術後と同じように包帯固定をする この状態で2週間くらいできれば理想的だが。







図4 カリフラワーイア
 
  2.鼻骨骨折
 スポーツをしていて人とぶつかったとき、堅い物の角で顔面を打ったとき、鼻骨が折れる(砕ける)ことがあります。最近では大関の千代大海が武蔵丸との一戦で鼻骨骨折をし休場しました。
 相手の肩や膝が当たった場合は見た目は大したことがないのに骨折していることもありますが、たいがいは鼻出血を伴います。鼻出血がない場合は、鼻中(び ちゅう)(かく)の軟骨を骨折していることがありますが、この場合は受傷後、しばらくして鼻閉を生じます。
鼻づまり、鼻出血がない場合で形も崩れていないときはそのまま様子を見てよいです。臭いがわかり、形もおかしくなく、鼻閉もなければ、鼻骨骨折があってもそのままあまりさわらなければ、2週間もすれば固着します。触ってばかりいると偽関節(No.20スノーボードによる手首のケガ参照)のようになることもあります。
 鼻出血がある場合は、とりあえず綿でもガーゼでもよいので、のどへ落ちないような大きさのものを左右に詰めてください。
詰める際に鼻すじがシフトしているときには凸になっている方を少し強めに詰めるとよいでしょう。気持ち悪くなければ、座ったまま少し下向きにしていた方が血を飲まなくてよいでしょう。
 形がおかしいようなら早いほうが整復が楽ですので、受傷後1週間以内に受診してください。また、鼻骨骨折があるときは眼窩底骨折を伴う場合もあります。目の動きがおかしかったり、物が二重に見えるようなら手術が必要になることがあるので確認してください。
 
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