「テニスのスポーツ医学」
 
 
 テニスは、人と接触する機会が少ないため、比較的に安全なスポーツといえます。しかしテニス肘を代表とする上肢の障害や、膝や足関節の障害が多く見られ、放置していると慢性の障害になることがあります。
1.テニス肘
 いわゆるテニス肘は、テニスのストロークにより起こる肘の痛みを総称して呼んでいると思われますが、主婦や、手作業が仕事の人で、肘の外側を痛めるもの(上腕骨外側上顆炎)も含めていうこともあるようです。
テニスによるテニス肘には、外側型と内側型があります。 (みんなのスポーツ医学.No10参照)
@外側型テニス肘
 テニス肘といえば外側型のことを示すほど、よく見られるものです。主にバックハンドで痛めることが多く、どちらかと言えば、初心者や、レクリエーションでテニスをしているプレーヤーに多く見られます。バックハンドのストロークやボレーで肘の外側に痛みを生じ、雑巾を絞ったりドアのノブを捻っても痛みが出るようになることもあります。
 手の甲を上にして物を持ち上げさせると、肘の外側に痛みが出ることで診断されます。(チェアーテスト 図1)
図1 手の甲を上にして物を持たせると肘の外側に痛みが生じる。
A内側型テニス肘
 上級者に多く見られ、フォアストローク、サービスで肘の内側に痛みを訴えます。
 そのほかにも肘の後面に痛みを訴えることもあります。
B原因
 いずれの型も原因は“使いすぎ症候群” です。 肘の外側に手首を背屈する筋群(伸筋群)、内側には手首を掌屈する筋群(屈筋群)、後面には肘を伸ばす筋(上腕三頭筋)が付いています。(図2)何度も繰り返し使うことにより、筋肉が骨に付いている部分で、小さな断裂が起こりこれが繰り返されることによって痛みが出ると考えられています。(図2) 









図2
何度も筋腱が骨を引っ張ることにより、腱に微小な断裂が起こり、さらにこれが繰り返されることによって、炎症が慢性化する。
Cテニス肘の予防
 一日に2時間以上、週3回以上行うとテニス肘の頻度が増加するといわれています。肘に違和感を感じる時は、練習量を減らすことが必要です。
 技術(フォーム)の低さも肘にかかる負担を大きくします。テニス肘になりやすい人は、体幹が回っていない・すなわち手打ちになっている人が多いようです。結果として上級者に比べ肘が伸びていない、手首の使い方が悪いという打ち方になります。疲れているときや、あまり走らない人も、手打ちになりやすいと思われます。(図3)
 
良いフォームは肘が伸びていてインパクトは体の前方 悪いフォームは肘が曲がってインパクトが遅れる
 筋力が無いとテニス肘になりやすいとされています。伸筋(外側)の方が屈筋(内側)より弱いので外側を痛めやすいわけです。男子より女子の方にテニス肘が多い原因は、主に筋力の差によるものといわれています。テニスを長く続けたい人は別メニューで夜などに手首の筋肉トレーニングをする事をお勧めします。(図4)
図4
伸筋を鍛えるときには、手の甲を上にして、ゆっくりゴムを上に引いて(A)戻すときはゴムの引っ張る力を腕に感じながらもっとゆっくり戻す(B)。15回くらいで疲れる強さで行う。
屈筋を鍛えるときは手のひらを上にする。
 
インパクト(衝撃)のある種目の場合、筋トレは特にインパクトが少ないゴムチューブなどで行うことを勧めている。
 ラケットの選択も重要です。最近のラケットは軽くて反発力が良い素材を使っているので肘や手首にかかる衝撃がかなり少なくなっていますが、自分にあったものを選ぶことが重要です。
 ガットの張力は、強いほど肘に負担がかかるので、ラケットの表示範囲内で緩くした方が負担がかかりません。グリップも太くした方が肘に負担がかからないので、自分にあった太さの中では一番太くした方がテニス肘の予防になります。スイートスポットから離れてボールが当たるほどねじれの力が肘に掛かるので、うまく当たらない人はスイートスポットの大きなラケット(=面積が大きなラケット)を選択した方がよいでしょう。
 どんなスポーツでもそうですが、特にテニスの場合ストレッチや、ウォーミングアップをしないで、少しストロークをしてすぐ試合をする人が結構います。最低、下肢・肩・肘のストレッチをして欲しいものです。
(図5)
 
図5 じっくり20〜30秒伸ばす。3回ぐらい行う。
(みんなのスポーツ医学No13.参照)
 
コートの質(クレー・ハード・オムニコートなど)や、相手のレベルなども関係します。非常に強い球を打つ人といつもプレーしていると肘に負担がかかりやすくなります。
D治療
筆者の経験からテニスを続けている人で、テニス肘になった人は大変治りが悪いので、違和感を感じたらすぐに専門医に行くことを薦めます。特に30歳以上では筋肉や腱に変性があることが多いため治りにくく再発しやすいようです。
 初期は安静です。症状により、プレーの軽減から中止、あるいはギプスなどの固定が必要な場合もあります。
 症状の強いときは固定に冷却を加えます。少し痛みが軽減すれば、逆に温熱療法を行い徐々にストレッチを行います。あらゆる筋肉に行いますが、内側型では手関節の掌屈、外側型では手関節の背屈 、後方型では上腕三頭筋のストレッチが主となります。(図5)
 交代浴も効果的で最初に充分肘を暖めて(5〜10分)1分水で冷やし、4分暖めて1分冷やすということを20分ぐらい繰り返し、最後に暖めるというものです。
 筋力トレーニングも痛みが軽くなり次第行います。(図4)痛みをあまり感じないくらいの負荷から始め、痛みを見ながら少しずつ負荷を増やしていき、強いトレーニング(15回ぐらいで疲れる強さ)まで持っていくことを目標にします。
 痛みが取れないようならステロイドの注射が著効を示すこともありますが、主治医の判断が必要です。
 筋力トレーニングができればいよいよ復帰です。スイートスポットにボールを当てる練習から始めてください。予防のところで述べたように、充分なストレッチ、ウォーミングアップを行い、終了後にもストレッチを行いアイシングを行うくせをつけてください。サポーターやテーピング(図6)を併用するとよい場合があります。何度も再発する人は両手打ちに変更を指

(図6)
簡単な外側型テニス肘のテーピング
弾力テープを手の甲から、肘の外側へ少し引っ張りながら貼る。

導することも必要になります。
2.肩の痛み
 テニスショルダー という言葉がありますが、これは長年テニスをしているとラケットによる牽引力で上肢が長くなることをいい、病的なものではないようです。
 しかしテニスのサービスはボールを投げる動作に似ているために野球肩と同じような症状になることがあります。原因はテニス肘と同じく使いすぎ症候群ですが、やはり充分なストレッチをしないばかりかサーブの練習もしないで、試合でいきなり速いサービスを打とうとしたり、スマッシュを打ったりすることも原因となっている人がいます。おかしいと思ったらすぐ専門医に行くべきです。筆者は、少なくとも2〜3週は上からのサービスを禁止させ、肩周辺のストレッチと筋力トレーニングを指示します。(みんなのスポーツ医学.No2参照)
3.頚部痛、腰痛
 テニスプレー中は、顔はボールの方向に固定され体幹を回すため、ボールを打つたびに頚部と腰部は常に同じ方向に捻っていることとなり、頚部痛、腰痛を起こしやすくなります。長年テニスをしていると背骨が変形する事もあります。たいていは充分なストレッチを行うことで予防できると思います。
4.膝痛
 テニスによる膝痛は肘、体幹の痛みに次いで多く、靱帯損傷、半月板損傷、ジャンプ膝などが見られます。(みんなのスポーツ医学.No8参照)
5.下腿・足関節
 ふくらはぎの肉離れはテニスでよく見られ“テニスレッグ”と呼ばれることもあります。たいていは内側の筋肉が損傷されます。サーブアンドボレーなどダッシュする時、急激に足で地面を蹴ったときに起こります。アキレス腱が切れれば手術が必要になることもありますのでいずれも充分なストレッチ、ウォーミングアップを行ってからプレーしてください。
図7
テニスレッグとはふくらはぎの肉離れ(腓腹筋断裂)のことで、内側が切れることが多い。
ふくらはぎのストレッチは十分に行うこと
(みんなのスポーツ医学.No13より)
 
  足関節捻挫はテニスでも多く見られます。初期治療を間違えて癖となってしまうとパフォーマンスが落ちてしまうことになります。(みんなのスポーツ医学.No3参照)
 
 目次に戻る
 
 
日本テニス協会公認スポーツドクター
静岡市医師会健康スポーツ医学委員
芳村 直