「サッカーのスポーツ医学」
 
 ワールドカップが日本で開催されたこともあり、さらに人気が過熱気味のサッカーですが、スポーツ開始年齢がますます早まる傾向にあり、発育盛りの子供の体に問題を起こすことが少なくありません。また、女子や、中高年者のスポーツ障害も多数報告されています。
1.スポーツ障害の特徴
T)発育期
 低年齢では、大きな外傷はなくターンしたときや着地などの足関節捻挫や、ボールを蹴ったときやダッシュしたときの足部の剥離骨折などが多いようです。骨軟骨組織が未熟なため、練習量が多いとオーバーユースにより慢性的な痛みになりやすいのが特徴です。
U)成長期以後
 プレーも激しくなり、膝の靱帯損傷や肉離れなどが多くなってきます。下肢の疲労性の障害(シンスプリント、疲労骨折)腰痛なども訴えます。
W)中高年
 老化の要素が加わり、筋腱の損傷が増加します。関節の変形による膝痛や、腰痛も出現します。
V)女性
 最近女性のサッカーへの進出が盛んで、特に盛んなアメリカ合衆国の報告では男性に比べ膝の十字靱帯を痛めやすいといわれています。これは膝の筋力のバランスや関節の弛緩性が原因といわれています。
2.足関節捻挫
 すべてのスポーツでいちばん頻度の多い外傷ですが、たかが捻挫ということで専門医に行かずいいかげんな治療をしていることがよくあります。後遺症で足関節に不安定性が残り痛みで長時間プレーができない足になってしまった人もいます。
(みんなのスポーツ医学No.3)
3.剥離(裂離(れつり))骨折
 成長期以前では筋肉・腱や靱帯より骨の方が弱いので、急な力が関節部にかかると骨が筋肉や靱帯に引っ張られて、骨が剥離してしまうことがあります。剥離した骨片が大きければ手術になることもあります。
(図1、図2) 











図1

図2
ボールを蹴るなど急に膝を伸ばすと、大腿四頭筋にお皿が引っ張られて、お皿が剥離骨折を起こす。
骨盤の剥離骨折

ジャンプするなどして大腿直筋が股関節の骨を引っ張り剥離する
第5中足骨剥離骨折

足を捻ったとき腓骨筋に引っ張られて中足骨が剥離する
 
 4.オスグッドシュラッター病
 11〜15歳ぐらいの男子に多く、膝蓋靱帯が下腿骨につく部分で成長軟骨が強力な大腿四頭筋に引っ張られて、炎症を起こすものです。レントゲン写真上では成長軟骨の部分が分裂して見え、肉眼ではお皿の下の骨が隆起してきます。成長軟骨の閉鎖が遅延して慢性の痛みが残ってしまう場合もあり、陳旧性オスグッド病などと呼ばれます。
(みんなのスポーツ医学No.5)
図3  オスグッドシュラッター病
5.離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)
 野球選手の場合は、投げすぎによる肘の離断性骨軟骨炎が有名ですが、サッカー選手では膝に起こります。はっきりした原因はよくわかっていませんが、繰り返される小さい外傷が軟骨を損傷することによって起こるといわれています。
 軟骨と骨の間の部分がはがれていき、ひどくなると完全にはがれて軟骨遊離体(関節ねずみ)となります。こうなると慢性の膝痛の原因となります。(図4)
図4

離断性骨軟骨炎
大腿骨の内側に起こることが多い
 
6.膝の靱帯損傷
図5  膝の主な靱帯 図6  前十字靱帯が切れると膝を伸ばすことで下腿骨が前方に脱臼する。膝を曲げる筋肉は下腿骨が脱臼するのを防ぐ。
 膝の靱帯損傷で多いのは内側(ないそく)側副靱帯(そくふくじんたい)損傷と前十字(ぜんじゅうじ)靱帯損傷です。足の内側を蹴られた時や、足を外側に捻った時に、内側の靱帯が損傷されます。膝のぐらつきがひどければ、ギプスを巻いたり靱帯を縫合する必要があります。
 膝を捻った後、関節に大量の血液が貯まってくれば、前十字靱帯損傷を疑います。前十字靱帯を痛めると、膝に力を入れると(蹴る・走る動作)下腿骨が前方に脱臼してしまいます。さらに運動を続けると高率に半月板を痛めてしまい、手術が必要になることがあります。しかしスペインリーグで活躍している城選手のように、痛めていても現役で活躍している特殊なケースもあります。最近女子のサッカーへの参加が盛んですが男子に比べると5〜8倍近く前十字靱帯を痛めやすいといわれています。原因は関節の柔らかさと、前十字靱帯を守る働きのある膝を曲げる筋力が弱いせいだといわれています。いずれにしても前十字靱帯損傷を予防するためには、膝の屈筋群の強化が重要です。(図6)
 後十字靱帯(こうじゅうじじんたい)損傷は単独では手術等は必要ないといわれていますが多くは、複合靱帯(ふくごうじんたい)損傷を伴っていて膝の不安定性が起こるため手術が必要になることもあります。
7.半月板損傷
 半月板は、大腿骨と下腿骨の間にある軟骨の板で、膝の軟骨を守る働きがありますが、サッカーのような激しい動きで痛めてしまうことがあります。
 半月板を損傷すると、膝を動かすときにカクンという感じと共に痛みが出たり(クリック)、膝が曲がらなくなる伸びなくなる(ロッキング)、歩いていて急に膝が落ちる(膝くずれ)、膝に水がたまる(関節水腫)などという症状が出ます。このような症状が出れば検査が必要になり、半月板の損傷がわかれば手術が必要になります。
(みんなのスポーツ医学No.8)
8.慢性の下腿部痛
 慢性の下腿部痛には多くの疾患がありますが、代表的には次のものがあります。
T)疲労骨折
針金を何度も曲げ伸ばししていると突然ポキンと折れてしまうことがあります。人間の骨も同じ場所に何度も力がかかると疲労して、ついには骨折してしまうことがあります。これが疲労骨折です。疲労骨折は起ってしまうと非常に治りにくくなります。
 ランニングによるもの(疾走型)や跳躍によるもの(跳躍型)、ウサギ跳びなどに見られるもの(腓骨)があります。跳躍型は特に治りが悪いといわれています。非常にまじめな選手に多いことや監督や家族の期待が大きい時に起こるなど、精神面との関連も示唆されています。
 初期ではレントゲンでは骨折が写らないので骨シンチグラムという特別な検査が必要になります。
U)シンスプリント
 過労性骨膜炎ともいわれ下腿下部の内側の疼痛が主な症状です。足を底屈する筋群が骨の膜を何度も引っ張ることによって起こる骨膜の炎症によるものとされています。放置しておけば疲労骨折になります。やはり、同じ動作の反復によるオーバーユース症候群です。
(みんなのスポーツ医学No.9)
9.腰痛
 中学、高校以上になると腰痛を訴えるサッカー選手は大変多く3分の1以上に腰痛の経験があるといわれています。原因は体幹の筋肉のバランスの悪さ、ストレッチ不足、オーバーワーク、グラウンドの質、スパイクの選択など多岐にわたります。
 若年者の腰痛で問題になるのは腰椎分離症です。腰椎に過度の力がかかり、疲労骨折を起こすものと考えられます。
(みんなのスポーツ医学No.6No26)
10.足部の障害
 特に足関節が不安定な人が長年サッカーを行っていると下腿骨の前面と距骨の骨同士に力がかかり骨が飛び出してくるフットボールアンクルや三角骨障害(図8)、有痛性外脛骨中足骨の疲労骨折(図9)などが見られます。
(みんなのスポーツ医学 No.21)
 
図8
フットボールアンクル
足関節の後面では、三角骨という骨が痛みの原因となることがある。
図9
足の疲労骨折は第2、第3中足骨に起こることが多い。
有痛性外脛骨はランニング時、足の内側に痛みを訴える。
11.スポーツ障害を減らすために
 最近は低年齢から一つのスポーツに打ち込んでしまう風潮があります。成長期では特に骨関節部分が弱く、過度の負担がかかりやすい時期です。この時に同じスポーツばかり行うと、同じ部位に同じようなストレスが加わるので関節周辺を痛めやすくなります。このような状態で練習量が多すぎたりストレッチやウォーミングアップが不足していれば、なおさら障害が増えます。
 外国では低年齢者には同じスポーツばかりさせないように取り決めのあるところがあります。またある欧州の国では、有望なスポーツ選手を一つの施設に集めてトレーニングさせていますが、勉学ができないと施設を追い出されてしまうと聞きました。サッカーに限らずどんなスポーツもバランスよく習得されていることが重要と思われます。

目次に戻る


 
静岡市医師会健康スポーツ医学委員
芳村 直